異常な君は、異常なモノが分からない

 握りしめていた携帯を布団の上に放置して、ゆらりと立ち上がる。顔を洗い、歯をみがき、トイレを済ませて、ふと時計を見れば、時刻は八時を回ったところだった。
 さて。と脳内で音を吐く。先週は試験があったせいでいつもよりほんの少しだけ(せわ)しない一週間だった。試験が終わり、バイトもない。丸一日オフとも言える今日を、私はどう過ごそうかと頭を悩ませる。
 友達? そんなものはいない。恋人? 当たり前だが、いない。家族? 大学へ進学するのを機に一人暮らしを始めたせいで、祖母はひとり故郷に残った。遠方も遠方だ。片道で一日が終わる。

「…………あれ……?」

 久々にゆっくりと寝て、少し怠けた身体を伸ばして、不意に、気付く。そういえば、先週は祖母に一度も電話をしていないな、と。
 毎日ではないけれど、祖母にはなるべく時間を見つけて電話をしていた。年齢のことも勿論あるけれど、私が家を出たことで必然的にひとりになってしまった祖母が、変な勧誘に引っ掛かっていないか、特殊詐欺に騙されていないか、エトセトラ、そういった心配を電話でしている内に、互いの近況報告をするのが暗黙のルールとなっていった。
 しかし先週はあまりにも時間がなくて、三日前にあった祖母からの着信にも出られず、そのままだ。折り返さなきゃという気持ちはあったのだけれど、睡魔に負けて結局後回しにしてしまっていた。
 ダメだな、私。
 己を叱咤し、まずは祖母に連絡を、と布団に埋もれかけている携帯へと手を伸ばした。

「…………誰……?」

 瞬間、タイミング良く震え出した四角い物体。
 誰だろう。教授だろうか。それとも、と考えながらも、何故か出なくてはいけないような気がして、通話マークをタップした。
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