異常な君は、異常なモノが分からない
リビングへと向かう。
リビングと言っても、昔ながらの日本家屋だ。居間と呼んだ方がしっくりくるかもしれないこの家の中で、そこは一番広い空間。当たり前のようにそこには畳があって、障子があって、起毛のカーペットが敷かれてあって、歴史を感じる茶棚もあって、こたつが置かれていて、ちょうどいい位置にちょうどいい角度でテレビも置かれている。
灯りをつけ、こたつの電源をオンにしてから、茶棚の前で屈む。大事そうに茶棚を撫でながら「これはババの嫁入り道具なんだよ」と、私が産まれた時にはもう既に亡くなっていた祖父を思い浮かべでもしたのか、とても幸せそうに微笑んだ祖母が脳裏に浮かぶ。
「……おばあ……っ、ちゃん、」
会いたいよ。
願っても、願っただけでは叶わない。
「…………ちょっとだたけ、待っててね、」
分かってる。
自分の願いは、自分で叶えるから。
誰に言うでもなく、己の中で決意を固め、茶棚の一番下にある引き出しの取手を掴む。ずり、とそれを手前に引っ張れば、そこには真っ白な便箋と真っ白な封筒と祖母が愛用していた万年筆。たったの一度も返事の来なかった手紙を、祖母はずっと、書き続けていた。
娘の為に、帰ってこい。何の捻りも飾り気もないその一文を真っ白な便箋にしたため、散歩に行ってくると嘘をついてまで真っ白な封筒をポストに投函しに行っていたのを、私は、知っていた。