異常な君は、異常なモノが分からない

 便箋と、万年筆。そのふたつを丁寧にを取り出して、こたつの上に並べ置く。冷えた爪先をこたつの中へと滑り込ませればじわりと指先が暖かくなって、少しだけ涙腺が緩んだ。
 透明なビニール袋に入っている便箋を一枚だけ取って、万年筆のフタを外す。最初の一文は何にしようか。手紙であれば、宛名を書くのが妥当なのだろう。けれどもこれは、手紙ではない。これはただの、メモ書きだ。

「…………お願い、します……?」

 しかし同時に、嘆願書でもある。
 やはり宛名は必要か。思い直して、上部に【この紙を見つけた人へ】と書き込んだ。
 一文字でも書いてしまえば、思いの(ほか)、筆は進む。祖母のお墓だけは頼みたいという願い、他力本願になってしまう事への詫びと成就してもらった際の対価について、半ば箇条書きのように記していく。
 気がかりは、お墓のことだけだった。でも、お墓が出来上がって、納骨をして、なんてところまで、このひとりきりの世界を生きていく自信はこれっぽっちもない。

「…………会いたいよ、」

 祖母は、私の唯一の家族だった。

「…………おばあちゃん」

 そして唯一の、私の、生きる理由だった。
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