夕日を纏わば衷に綻ぶ
*
それから1週間経った時のこと。
(……あ、)
カランカラン……という聞きなれた音がする方に目を向けると、そこには、ちょうど1週間前に私に紙切れを差し出した黒髪の彼が立っていた。
日曜日。お昼ラッシュが落ち着いたばかりの店内は閑散としていて、店長が休憩に入っている今、この空間には私と彼しか居なかった。
「……あ、こんにちは」
「……、いらっしゃいませ。空いているお席どうぞ」
「じゃあ、カウンターでも良いですか」
「……どうぞ」
少しだけ気まずいと思っているのはきっと私だけだ。
天堂 夕陽の連絡先を貰ったあの日から、結局私は勇気が出ないまま、あの紙切れは財布の中にしまい込んでしまったのだった。
どうでも良くなったわけではない。考え出したら止まらなくなって、正解がわからなくなってしまっただけだ。
ただの彼の気まぐれだったら?
遊びだったら?
暇つぶしだったら?
それとももし、もし本当に────私に一目惚れしていたとしたら。
どう対応すべきなのか何もわからなくなって、あの数字の羅列を何度も打ち込んでは消して名前をなぞっては消してをひたすら繰り返してこの一週間を過ごした。