エリート御曹司は淫らな執愛を容赦しない~初夜に繋がる結婚事情~
4.甘やかしてさしあげますよ
実際に携わってみないとわからないことは多い。ホテル建設というまったくの異業種も、私にとっては発見の連続だった。入社から二ヶ月、ホテルは初夏の開業を目指し順調に建設が進んでいる。私は日々、担当たちと業務を詰め、必要であれば外部業者との打ち合わせにも参加し、順調に仕事を進めていた。
毎日忙しいけれど、今のところは及第点じゃないかしら。新しい環境で働くことで、前職の最後の方でしおしおにしぼんでしまった自信と労働の喜びを、再び思い出せている気がする。
定時から三十分、仕度を終えてオフィスを出る私に、優雅が声をかけてくる。
「愛菜さん、お疲れ様です。今日は食事にお誘いしても大丈夫ですか?」
優雅はにっこりと微笑む。私はじとーっと眺めてから、ぷいと顔をそらした。
「先約がありますので」
「ふふ、存じ上げてます。澤村真由乃さんですね。フロントにお勤めの愛菜さんの幼馴染の女性」
「どこまで知ってるのよ。気持ち悪い」
私が頬をひくつかせても、優雅は楽しそうにしている。
「ちょうど、今、下でお会いしたんです。エントランスでお待ちですよ」
「それはどうも」
知っていて、食事に誘うとか、私に絡みたいだけなのね。オフィスを出てエレベーターに向かうと、優雅がついてくる。
「どうしてついてくるの」
「いえ、コーヒーを買いに行くだけです」