カレシとお付き合い② 森君と杏珠

（森君だ！）

　ドキッとした。

　サエキさんの真後ろに立った森君は、まだベラベラと文句を言ってるサエキさんに、


「おい、黙れ」


と、冷たい口調で言った。
サエキさんは黙った。


「話し合いしろ。出来ないなら、参加するな」


サエキさんは、


「はーーーい」


と返事した。

　そのまま大人しそうになって、髪を触ったり、もう私になんて興味ない感じになった。

　
　森君は、今みたいに、日頃からサエキさんが何か意地悪な事を言い出したら、きつく叱るように止める。
『やめとけ。しょうもない事、すんなよ』と言ってるのを何回も聞いた。
すごい厳しい感じ。

　森君のおかげで、サエキさんはこの程度の意地悪ですんでるのかも。
森君とサエキさんはよく2人で話してるのを見かける。
　
　どうでもいい人に注意するかな、真剣に怒ったりするかな、って思うんだ。
　その人にちゃんとしてほしいし、一緒に過ごしたいから、わざわざ言ってあげるんじゃないのかな？
　欠点をほっとかず、ちゃんと厳しく注意するって、それだけその人に真剣に向き合ってるんだよね。

　森君の注意してる声。
　冷静で、落ち着いてて、毅然としていて大人っぽくて、妙に心に響く。

　ちらって森君を見た。
　
　彼と目が合った！

　とたんに、ドキッと心が音を立てた。

　何か森君て正しいって、すごい心の奥まで届いて、じわじわ広がった。

　サエキさんは、そんな彼に導かれてうらやましいと思う。
　
　森君に私のダメなところを指摘してもらえたら、って思ってしまう。
　それだけ私を知ってくれて、成長をともにしてくれてるみたいに感じるだろう。
　
　そして森君の気持ちと寄り添えるような人になって、そうやって彼と一緒にいてもいい人になれるかもしれない。

　森君はサエキさんの悪いところをちゃんと注意してあげるぐらい親しいんだ。
　彼女と一緒にいようと思うからそうやって労力を使うんだろうなー。

　ちくちく、と胸が痛んだ。
　
　森君に親身になってもらえるただ１人の女の子か⋯⋯ 。
　一緒に問題に取り組んでもらえる女の子。
　彼のトクベツ⋯⋯ 。
　
　私は当たりさわりのない同じクラスの人。
ただ、彼に認識されてるだけ。