カレシとお付き合い② 森君と杏珠

頭の真上から声がしたから、


「うわっっっ⁈ 」


と振り返ったら、至近距離に森君の顔があった。

 とたんに、ぶわっと顔に血が上る、湯気が出そうになる。

 森君は、さっきまで座ってたところから、私の真後ろというか、真横の空いてた席に移動してきていた。

 私はまいちゃんと紬ちゃんの方に体を向けて思いっきりしゃべっていたので、その背中にほぼ当たるぐらいの近さに森君がいた!

しかも、彼はこちらを覗き込むようにしてたから、肩越しに振り返った私はもう、あたっちゃうぐらいの距離で森君を間近でみてしまった。

フラッとしたら、森君の胸にもたれたみたいになって、森君は私の後ろの背もたれに左手を置いてて、息がこめかみにあたるぐらいで、あわてすぎて椅子から落ちそうになったのを、森君に抱き留められた。

結果⋯⋯

私は彼の腕の中に抱きこまれていた。
何だかいい香水の匂いがしたので、ふっと気が遠くなってしまった。

 これ、現実?

辻本君が、
「えっ? そーゆーことなの? 」
と向こうで呟いていた。

まいちゃんが、
「あー、そーゆー事なんだ」
と妙に納得していたけど、紬ちゃんと私にはさっぱり分からなかった。

 私が森君の腕の中から出て、元の椅子に座って、飲み物を一口飲んで、正気にかえったところ、まいちゃんは真剣な顔をしてるし、紬ちゃんは心配してるし、何だか会議みたいな雰囲気になった。

まいちゃんが、


「で、森が何した? 」
「だから、森くんが⋯⋯ 」


今は隣に座ってる森君を見たら、今度はにっこり笑われた。

うわっ

あせって、真っ赤になって前を向いて、


「いえ、だから、学祭の実行委員になろうと言われて、2人で立候補⋯⋯ したと言うか⋯⋯ 」
「で? その森の誘いのせいでサエキに嫌われたって事? 」


 少し落ち着いてきていた私は、この話、森君の前でしていいのかな、と重苦しい気持ちになった。
 サエキさんの事、話題にして、大丈夫⋯⋯ ? 
森君に悪くないかな⋯⋯ 。
 もし、もし、サエキさんの事⋯⋯ 大事⋯⋯ に思ってたら⋯⋯ うっ、やだな、どうしよう⋯⋯ 。

 それに私がサエキさんに嫌われたとして、それは森君のせいではないな。


「えっと、それは関係なくて⋯⋯ 」
「へっ? 関係ないの? 」
「うん、自分がサエキさんに前から嫌われてた。だから『きっかけ』かな。森君のせいではないです。私が変だからだと思う⋯⋯ 」


紬ちゃんにくよくよともたれたら、紬ちゃんも、よしよしして、分かる分かるとうなずいてくれた


「いやいや!
紬も杏樹も、人がいいっていうか、疑わないっていうか⋯⋯ それはもう森のせいでしょ! 」


とまいちゃんが、ため息をついて言った。
それからまいちゃんは

「ねっ! 」


と怒ったように森君をにらんだ。
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