カレシとお付き合い② 森君と杏珠
森君の気持ち、分かんない
♢森君の気持ち、分かんない♢
森君って人。
優しく話す声。
見てたんだよねって。
かわいいって。
ふふ、て笑う声。
私の名前を発音する唇。
彼と目が合う。
その事すべてが⋯⋯ 現実⋯⋯ 。
あんな感じで皆んなに接する、と言われればそうだと思うし、トクベツって意識したらそんな感じもするし、考えて、今までの森君を訪ねてきた子たちに愛想よくしている姿だったり思い浮かべてる。
森君のこと考えると、なんか心が苦しいな。
何だか森君の顔ばかり思い出して、話した事をもう何百回ぐらい脳内再生したんだか。
どうしよう、あの人、素敵かもしれない⋯⋯ 。
『オレといたらいいじゃん』って私に言った。
肩越しの至近距離の顔や、思わず倒れかかった時の、あたたかさや、固さや、
あー、私、顔が熱くなる、
そして教室に行ったら、隣の席なんじゃない?
しかも委員まで一緒に⋯⋯ ダメだ。
おかしくなってる。
って思ってたら⋯⋯ 。
おっと、いきなり階段のところで、サエキさんに会ってしまった。
下から階段、上がるんだ、私。
でも、途中にサエキさんが待ってるかんじなんだ。
突き落とされないように手すりをしっかり持って、反対側を上がってたら、もちろん話しかけてきた。
「何、学校きたんだ。あつかましい。来んなよ」
立ち止まって、下からサエキさんを見上げる形になった。
「ねーねー、わかってるよね。
和慎は、ワザとからかってんのよ。
あんた馬鹿だから。
あたしと和慎は子供の時から一緒なんだから! 」
うーん、
想像してたけど、
やっぱ、怖い。
悪意ってささるし、嫌われるって誰からであれ辛い。
仕方ない! 逃げる!
横を通る瞬間、いきなり走った。
マラソン大会なみに、マジで走った。
サエキさんは驚いたのか、
「待ちなさいよっ、、、、、」
って後ろから言ってたけど、待つわけない。
全速力で教室に飛び込んだ。
教室にいる生徒が、一斉に私を見た。
そりゃ、こんなに朝から張り切ってたら、驚くよね。
息がはぁはぁして、とまらない。
席に何とかたどりつく。
隣の森くん机。
彼の顔を思い出して、またドキッとして、うわー、なんか、うわー、ってなってたら、本人の森君が少しあわてて教室に来た。
彼は戸口でまっすぐに私を見た。
最初に。
まず、確認するみたいに。
私は森君の顔から、目が離せなくて、ただじっと見てた。
自分でもどうかしてて、どうにも自分を出来なくて、そしたら森君が私を見ながら歩いてきて、すごく近くで立ち止まって少し頭を下げて、
「何て顔してんの? 」
と優しく笑った。
あー、昨日のこと、全部本当だったんだ。
さっきのサエキさんとのやり取りにまた塗り替えるように、森君だけになる。
気が遠くなりそうだった。