カレシとお付き合い② 森君と杏珠


 固まって顔をあげたら、森君が、にっこりうれしそうに微笑んで、


「委員会、行こうか? 」


と言いながら、手をつないだまま歩き出した。
 しかも真横に引き寄せられて、


「楽しみだね」


とか話しかけてくる。

 これ、

 もうカップルだから⁈

 私の知識では、これはもう付き合ってる人達の行動なんだけど、


「私、歩けます! 」


といきなり強く言って、手を引きぬいてしまった。

 顔が熱くなる。
 男の子の手、森君の手。
 大きい。
 あったかい。
 つなぎたい、って感じてる⋯⋯ 。

 私、えーん、実に感じ悪いことをしてる、過剰に反応した、呆れられる、めんどくさい、なんなん、って事だろうと瞬時に思った。

 ただ、歩いて委員会にいく移動中。
こんな、重くて大変な事ですか、と。

 先生に言いつけられるレベル、きっと小学生だったら、今頃私は、お友達と仲良く出来ない子、ってなってただろう、

と一気に考えたので


「すみません」


と小さな声であやまった。

 どうしようと思ってたら、森君が何でもないように、さらっと、


「あ、手をつなぐの恥ずかしい?
いいよ、オレは。
ぜんぜん、あんじゅとつなぎたいから。
歩けるのはわかってるよ」


と、優しく甘く、にっこりと当たり前のように、親切にしてくれる。

 何だろう、この状況。

 しかもかがむように、のぞき込まれて「はい」とお手みたいに手を出されて、つい「はい」と手をのせたら、ふふ、と嬉しそうに笑われて、何だかまた手を繋いで、歩き出した。

 森君て、これって優しいのか?

 何だろ、これ?

 なんなんだ、どうしよう、この気持ち。
 え、何この甘い気持ち⋯⋯ 。

 超高級リゾートセレブな泡お風呂に入ってるみたいな。
 極上の甘いスイーツを食べてるみたいな。

 すごい幸せで同時に胸がギューとする。

 世界中のみんな、こんな気持ちになっちゃうよ。
 森君に落ちちゃうよ。
 この甘さ犯罪級だよ、森君⋯⋯ 。

 森君が話す、優しく穏やかな声。
なんか、いい匂いしてくる。


「みんなと、こうやって歩くの? 」


と思わず聞いた。
 私は見上げる、彼は見下ろす。

 柔らかい茶色っぽい髪が、額にかかってる、綺麗な整った顔、茶色味の瞳。

 身長差。

 男の子。

 私は、学校の廊下にいる事を忘れた。
森君しかいないみたいだった。
委員会も忘れた。
ただ2人で、ここに手をつないでいる。


「そんな訳、ないじゃん。
あんじゅとだけだよ」


 あんじゅとだけ。
そんな訳ないって、
 何だっけ、そうか、みんなと手をつないで歩いてるのか聞いたんだ、じゃ、私だから、って。

何これ。


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