カレシとお付き合い② 森君と杏珠


 終わって、森君は、当然の当たり前のように私と帰り始める。


「えっと、同じクラスだから? 」


て聞いた。
 聞いてから「何が? 」ってかんじの質問じゃん、と自分に思った。


「あんじゅだから? 」


 また言った!
 あんじゅだ、か、ら、
 あんじゅ=私
えっと、森君何を言ってんだ?


「家はどこ? 」


 私の家は学校の駅から5駅で、駅からは坂を登って6分てかんじだ。
 駅名を答えたら、


「近いね」


と何処と何処が近いんだか、全然わからない返事をされた。
 何かわからないけど、何やら近いんだね。

 迷いなくまた私の手を握って、駅に向かって歩いた。
 他の生徒に見られてます。
 変ですってば。

 電車に乗って、降りて家の駅まで来て、はっと気がついた。
 あわてて、はっ、と手を振り解いた。

 何? って森君がこちらを見た。


「待って!」


 私は真っ赤になった。

 私、誰とでも手をつなぐって、森君に思われるじゃない! 
 男の子と平気で、付き合ってもいないのに、手をつなぐ子と思われる!
平気で2人きりで帰ると思われる!


「私、こんな事しないよ! 男子と2人で帰ったりしないし! 手を繋ぐのも初めてだし、日常的にする認識じゃないよ! 」


森君は驚いてる。


「いや、ふしだらな子じゃないです、たぶん私! 」


森君は驚いてから、笑った。
 苦笑ってこれ?
 困った笑い?
 残念な人を見る笑い?
ちょっと違う。
 いや、わかんないこの表情は。
理解できない私には。

 それから、じっと私の目を見た。
急に真面目な顔。


「じゃ、今日は何で一緒に帰ったの? 」


息が止まりそうになった。

 私は顔が空気がいっぱいになりすぎて、割れちゃう風船みたいな気持ちだった。


「森くん⋯⋯ だから⋯⋯ 」


 森君を見たまま、小さな声で言った。
 森君だから、そうした。
 他の人じゃ、嫌だ。

 森君は、ちょっと息を吸って、驚いた顔をして、ちょっと赤くなった。

「ふふ、
あんじゅは素直でかわいいね。
大丈夫だよ。
オレとだからだよ」

それから、また真面目に、

「でも、他の男とはダメだよ。それはふしだらだから」

 うん、当たり前、と思った。
 する訳ない。絶対ない。

 深く何度もうなずく私を、森君はすごい笑顔でよしよし、って撫でてくれた。

 森君は家までおくってくれた。


 森君と過ごすようになった。


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