カレシとお付き合い② 森君と杏珠




 あー、最悪だった⋯⋯ ほんと、恥ずかしかった⋯⋯ 。

 昼ごはんの時、太陽ちゃんやみんなに、大したことないよって、ってなぐさめられたけど、どんどん落ち込んでいく。

 昼ごはんのあとも、1人でモヤモヤしながら自分の席に座っていた。

 たまたま周りに誰もいなかった。

 サエキさんが、黙ってすっと近寄ってきて、隣の森君の席に横向きに座った。

 サエキさんは真横から私の方をむいて、


「男子の気、引いてんの? 」


といきなり言った。


「はい? 」


 クラスの後ろからは、サエキさんは後ろ姿。
彼女目や怖い顔は見えていない。

私の強ばった顔が皆に見えてる。


「だって男子たちの真ん中で、脱ごうとしたんでしょ? 」
「あれは! 単に間違えて! 」


 傷口に塩⋯⋯ ってかんじ⋯⋯ 。
 いや、私の心の中だけなら、それってかんじだけど。
そうじゃなくて、わざとそんな言い方したら、そうなっちゃうような、事実が違ってきて、意味を変えてしまうかんじ。

 そうやって言いふらされて、事実がどうあれ、そんな人ってなってしまう。

 サエキさんが、単に意地悪、とかじゃなくて怖いとすごく思った。
一緒にいた人たちが逃げようと思うのも、避けようとするのも当然だよ。


「消えろって言ったじゃん。
あんた、しつこいって。
メイワクなんだって、和慎も困ってたよー」


森君の名前を出されて、彼がそんな事、サエキさんに言うはずないって、信じた。
でも、メイワクはかけてるのは本当で⋯⋯ 。


「いつも和慎は私だけの心配をしてくれるんだ、昔から。私たち、家も近所だし家族ぐるみで付き合ってんの。
親身になってくれて、カノジョだからねって」


 聞いちゃダメ。
 事実でもウソでも、本当じゃないから。


「だって、和慎は、必ず私の方をとる、あなたの方じゃなくて、私の隣にいて、何でも全てを見せ合って分かり合って一緒にいる」


サエキさんは、素直な可愛らしい笑顔で、


「私の方が和慎に近いのよ?」


と微笑んだ。
 それから、サエキさんがいきなり手を伸ばして、私の顔を触ろうとした。

(! )

私がその手を思わず振り払ったら、



「ひどい! 」


と、サエキさんは椅子から転げ落ちて泣き出した。
 私が突き落としたみたいに。
 泣かせたみたいに。
 わざとらしく。

 クラスの人が見てる。

 その真後ろに、あわてて教室に入ってくる森君が見えた。

 戻ってきたんだ。


「森くん⋯⋯ 」


と私は言った。
 彼にはどう見えてるんだろう、この状況⋯⋯ 。

 サエキさんが、パッと振り返って、


「ひどいんだよ! 」


と泣きながら森君に抱きついた。
 森君は無言で手を外して、サエキさんを離した。
 私にむかって、


「大丈夫? 」


と聞いた。
 私は答えなかった。
 だって、私、ホントは⋯⋯全然、 大丈夫じゃないよ⋯⋯ 。

 森君はそれから「ちょっと来いよ、」ってサエキさんを連れて教室から出ていった。
出て行く時、サエキさんが、ちらっと私を見た。
『ほらね』って。

 取り残された。

 森君はサエキさんと出て行った。

『和慎は、必ず私の方をとる、』
『あなたの方じゃなくて、私に親身になって、』
『隣にいて何でも全てを見せ合って分かり合ってる』

それって、

『私の方が和慎に近いのよ』

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