カレシとお付き合い② 森君と杏珠
私は、こんな風に森君に覗き込まれるように話されるのが好きだ。
トクベツみたいに、ちゃんと、私だけと話そうとして、背が高いから、かがんでくれる。
柔らかい前髪が、下を向く彼の動きについて、揺れる。
森君の匂いがして、包まれるみたいになって。
彼の他の人と全然違って見える、大人っぽい制服のシャツや、ネクタイ。
もっと近寄りたくなる。
優しく甘く話される。
私だけを好きでトクベツに思ってくれたらいいのに、って思ってしまう。
どこにいるのかも、考えていた事も、何してるのかも、わかんなくなった。
森君だけがいる。
私は自分の中身全部をこめて、森君を見た。
これが全部、私の。
知りたいなら私はいくらでも全部を出す。
いくらでも丸ごとで森君に向き合う。
でも、そんな事言ってた森君の方が困ったみたいに目を逸らした⋯⋯ 。
彼は大きな手で、自分の髪をかき上げた。
困ったみたいに。
「なんでそらすの?」
知りたいって言って、全部を出した。
でも彼は逸らしちゃうんだ。
「まいったな。あんじゅには」
森君が、珍しく、言葉を濁す。
困ったみたいな顔をしてる。
何だか余裕がないみたいに⋯⋯ 。
「いや、ごめん、ちょっとどうしていいかわかんなかった⋯⋯ 」
と独り言みたいにゴソゴソ言ってから、
「こんな風に、言うつもりじゃなかったんだけど、オレは付き合ってほしいと思ってるんだ」
「どこに?」
森君が息を呑んだ。
苦笑した。優しく。
「つまり、オレのカノジョになってほしいって方の意味だけどね? 」
「⋯⋯ どうして? 」
泣きそうになった。
「もちろん、好きだからね」
「カノジョって1人? 」
「えっ? 1人だけだよ? 」
森君が不思議そうな顔をした。
私だってもっとわからなくて、それ以上、返事ができなかった。