契約結婚ですが、極上パイロットの溺愛が始まりました
予定が合わずに話が進められなかったこの間、桐生さんはこれから生活を共にする新居のマンションを契約したという。
メッセージのやり取りの中で、新居における条件は質問形式で訊かれていた。
通勤を考えた範囲だとか、譲れない条件だとか、住まいに関することを細かく訊かれた。
だけど、まさかすでに住まいを用意してくるとか思ってもみず、今朝入っていたメッセージで寝起きの頭が一気に冴えた。
いい目覚ましにはなったけれど、それから今日は一日ずっと気持ちが落ち着かなかった。
「……よし」
目尻が少し滲んだアイメイクを修正し、マスクのせいでよれたベースメイクをルースパウダーで整える。
更衣室をあとにし、急ぎ足で待っているという病院前の大通りへと向かった。
なんだかんだ最後に会ったのはル・シャルルに行った日で、直接会うのはかなり久しぶりになる。
着実に近づく距離に緊張が膨らんでいくのを感じながら、差した傘の柄を両手で握りしめる。
病院正面の正門を出、大通りを左右きょろきょろとしてみると、門から少し離れた車道の脇に黒塗りのセダンが一台ハザードランプを点灯させて停車していた。
その車が桐生さんかはわからないものの、周辺に他にそれらしい車は停まっていない。
歩道から近づいていって、その車が高級外車であることがエンブレムでわかったタイミングで、運転席のドアが開かれた。