契約結婚ですが、極上パイロットの溺愛が始まりました
「仕事お疲れ様」
「あ、はい。すみません、職場までわざわざ迎えに来ていただいて」
「いや、構わないよ。とりあえず出すね」
今日はグレーの五分袖のサマーニットに、ブラックのスラックスというカジュアルな装いの桐生さん。
この間スーツだったのは、契約結婚の話を私に持ち掛けるからだったもかもしれないとふと頭をよぎる。
「今住んでいる部屋はここから近いって言ってたけど、通勤は徒歩?」
「あ、はい。歩いて十分くらいのところなんです」
「そうか。通勤が便利だったのに、新居に引っ越したら電車通勤になるから申し訳ないなと思って」
「電車に乗ることにはなりますけど、乗る時間は徒歩に使ってるくらいと同じみたいですし、通勤時間自体はそんなに変わらないので大丈夫です」
新居のマンションはお互いの通勤に便のいいところに決めてくれたようだけど、今よりは距離的に遠くなるのは仕方のないことだった。
それでも通勤しやすい路線で決めてもらったから文句はない。
徒歩十分が電車で十分になるだけだ。