契約結婚ですが、極上パイロットの溺愛が始まりました
「家具も家電も、まだこれからで、今は最低限のものしか入ってないからがらんとしてるけど」
玄関先の廊下を折れて進んでいくと、リビングダイニングが現れる。
真っ暗な部屋の先、広い窓からは光の粒がキラキラと見えていた。
「大きい窓……」
三十五階から望む東京の景色は、私にとったら非日常の光景でしかない。
ご褒美で高層ビル内に入る景色のいいレストランに行った時くらいの経験だ。
こんな景色が望める場所で生活を送れる人は、間違いなくこの世の成功者と言える。
部屋の明かりがパッと点き、広々としたリビングが目の前に現れると、そこにはポツリとソファーセットだけが置かれていた。
三人掛けほどの黒い革張りのソファーは、ローテーブルを囲うようにしてL字に設置されている。
「広い……素敵なマンションですね」
「そう? 気に入ってもらえたならよかった」
部屋の中を見回し立ち尽くす私の横で、桐生さんは鎮座するソファーへと向かっていく。
その手には、どこから出てきたのかA4サイズほどの封筒が。
ソファーへと腰を掛けると、手にある封筒から書類らしき紙を引き出した。
「早速だけど、弁護士に作ってもらった契約書を確認してもらえるかな」