契約結婚ですが、極上パイロットの溺愛が始まりました
「……はい、読みました」
「早いな」
ツッコミのようにそう言った桐生さんは、ふっと笑みをこぼす。
「本当にちゃんと読んだ? 焦らなくていいから」
「あ、はい。じゃあ、もう一回……」
どうやら焦って読んだのがバレていたらしい。恥ずかしい……。
文字はちゃんと読んでいるつもりが、内容がちゃんと頭に入ってこない気がする。
桐生さんがとなりにいるから、声を出して読み上げていくわけにもいかないし……。
「わかった。じゃあ、貸して」
「え……?」
両手に持っていた書類を上からすっと抜き取られ、つられるように顔を向ける。
桐生さんは少し離れて座っていた距離を詰め、私にも見えるように書類を下ろした。
「読み上げよう。内容の確認もしながら」
「え、あ、すみません」
「じゃあ、第一条から。甲と乙は、婚姻するにあたり、互いに第二条以下の条項をすべて理解し、同意した上で真摯にその履行に努めるものとする──」
わざわざ読んでもらうなんて気を使ってもらったからには、ちゃんと内容を理解して返事をしなくてはならない。
一文一文を噛みしめるようにして目と耳に意識を集中させ、契約内容を頭に叩き込んでいく。