契約結婚ですが、極上パイロットの溺愛が始まりました
不意打ちの口づけ



「お世話様です、ありがとうございました」


 まだ見慣れない玄関でこうして引っ越し業者の人を見送るのも現実味にかける。

 黒いドアが閉まりひとりきりになると、「ふう」と小さく息をついた。

 この場所で契約結婚の書類にサインをしてから、早くも十日。

 その後、互いに引っ越し業者に依頼をし、この新居に荷物を運びこんだ。

 私より先に引っ越しをしてきたのは桐生さんで、今日初めて渡されたカードキーで部屋に訪れると、すでに中には桐生さんの私物が置かれていた。

 共有のリビングダイニングやバストイレ、その他にプライベートの部屋が各自に用意されている。

 この間訪れたときにはがらんとしていた部屋は、ソファーセット以外の家具や家電も入り、もう生活ができる状態になっていた。

 ホワイトが多めの、モノトーン調の落ち着いたインテリア。シックだけれど、住み慣れたら愛着が湧きそうだ。


 ここが、これから住む家か……。


 いまだに自分のことなのかと思うくらいピンと来ていない。

 東京の街を見渡せるこんなタワーマンション、自分には一生縁のない場所だと思っていた。

 初めて来た日は陽も落ち夜景が望めた広い窓からは、今は遠くまで東京の街並みが広がっている。

< 116 / 246 >

この作品をシェア

pagetop