契約結婚ですが、極上パイロットの溺愛が始まりました


 玄関でスニーカーに足を突っ込みながら、思ったことを何気なく口にする。

 言葉のキャッチボールが途切れたことで何となく七央さんの顔を仰ぎ見ると、その表情は何故かどこか曇って私の目に映った。

 どうしたのだろうかと思いながら、「では、行ってきます」とドアへと向かう。

 一歩踏み出したところで背後から腕を取られ、少し強引な力で引き寄せられた。


「──っ……!」


 後方に顔を向けたとほぼ同時、七央さんの綺麗な顔が間近に迫っていた。

 さっきまつ毛を取ってくれた時よりも近く、ハッとする。

 次の瞬間には七央さんの少し傾いた顔が、焦点が合わないほど接近していた。


「なっ……」 


 今度は勘違いなんかじゃない。

 唇に触れた感触は確かで、無意識に両手で口元を押さえる。

 掴んだ腕を放して私から離れた七央さんは、驚き固まる私を見下ろし不敵な微笑を浮かべた。


「あれ? もしかして、前言撤回って感じ?」

「へっ……?」

「優しい人は、こんな不意打ちでキスなんてしないだろ」


 これまで見たことのない意地悪な笑みを浮かべて、七央さんは挑発的な言い方をする。

 頭の中がパニック状態で何も働かず、咄嗟に返す言葉も出てこない。


「ぃ……行ってきます!」


 結局逃げるようにして玄関のドアを飛び出していた。

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