契約結婚ですが、極上パイロットの溺愛が始まりました
「え……?」
勇気を出して顔を横に向け、七央さんの様子を窺う。
七央さんは私と同じように天井をぼんやりと見つめていた。
「というより……怖い、のかもしれないな」
七央さんの口から〝怖い〟というフレーズが出てきたことに目を丸くしてしまう。
そんな言葉は、何事も完璧な七央さんには不釣り合いだ。
「怖いって、何か……トラウマとか?」
「トラウマ……いや、そんなわかりやすいことじゃない」
過去を振り返ってなのか、七央さんはフッと苦笑する。
そして、意味深に小さなため息を落とした。
「今まで誰も……俺を本気で想ってくれた人間はいなかった」
え……?
それは一体どういう意味なのか。
深そうな話の先を、訊き返していいものなのか言葉に詰まる。
「って、もうどうでもいいだろ、そんな俺のつまらない話は」
深掘りするかもたもたしているうちに、七央さんは話を自ら終わらせてしまう。
そのまま「おやすみ」と七央さんが言うと、寝室には沈黙が落ちた。
七央さんは言っていた通り真横にいる私に触れることはしなかったけれど、色々なことを考えると久しぶりに目をつむったままなかなか夢の世界に旅立てなかった。