契約結婚ですが、極上パイロットの溺愛が始まりました
side Nao
フライト後の打ち合わせ──デブリーフィングを終えると、俺はいち早く立ち上がり足早に席をあとにした。
更衣室に急ぐ背中に、「お疲れ様です」と声をかけてきた森川が横に並んでくる。
「お疲れ」
「桐生さん、今日はやけに急いでません? デブリ後に一目散なんて珍しい」
鋭いツッコミにちらりと横の森川に目を向けると、にっと笑って探りたそうな顔をしている。
「奥さんと約束があるから」
隠さずはっきりとそう答えると、森川は自分にツッコミを入れるように額をぺちっと叩く。
「やっぱりかー」
「予想がついているのにいちいち聞くな」
「いや、そうなのかなーとは思ったんですけど、訊いてみたくなるじゃないですか」
森川は「そっか、そっかぁ」となぜだか嬉しそうに納得する。
佑華と契約結婚をしてから、職場でも結婚をしたことを公にした。
父親と同じ職場だから結婚報告は同時に行わないといけない部分もあったが、思いのほかいい効果も得られている。
面倒な飲みの席への誘いや、うんざりしていたしつこいCAからの連絡もぱたりとなくなったからだ。
俺にとってはいいこと尽くめ。契約結婚をして本当に良かったとしみじみ思っている。