契約結婚ですが、極上パイロットの溺愛が始まりました
彼女の告白



 病棟内に美味しい香りが漂ってくる正午前。


「じゃあ、お昼食べてシャワー浴びたらまた声掛けてください。焦らないで、ゆっくり食べてゆっくりシャワー浴びていいからね」


 母子同室になった退院間近の母親の病室から、すやすやと眠る新生児を預かっていく。

 出産後の体のダメージに加え、睡眠も満足に取れない新生児との生活が始まった母親にとったら、ご飯をゆっくり食べ、ゆっくり入浴ができる時間は貴重な癒し。

 赤ん坊を預かり『ゆっくり食事して』と声をかけると、ほとんどの母親はほっとしたような表情を見せるものだ。

 退院後、いきなりのワンオペ育児を強いられる母親も少なくない。

 だからせめて、入院中くらい体を休め、ひとりでゆっくり過ごせる時間を提供できたらと私は思っている。


「え? 申し訳ありません、もう一度よろしいですか?」


 赤ん坊を抱いてナースステーションに戻っていくと、佳純が電話対応をしていた。


「キリュウ……えっと、うちにはそのようなスタッフは──」


 耳に飛び込んできた名前に、思わずばっと佳純を振り返る。

 ちょっと……今、聞き捨てならない名前が聞こえたのは気のせい!?


「──はい、お名前いただければ……嘉門美鈴さま、ですね、はい──」


 み、美鈴さん!?

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