契約結婚ですが、極上パイロットの溺愛が始まりました
「七央さんのことは……もう、ずっと昔から?」
聞いていいものかと思いながら、言葉を選ぶ。
となりの美鈴さんは真っすぐ前を向いたまま、その横顔にまた笑みを浮かべた。
「もう、いつからかなんてわからない」
そう言った美鈴さんは「って、長すぎる片思いもたちが悪いよね」自虐ネタのように言った。
「好きなことが当たり前になってて、普通で。だけどこの間、こんな麻痺しちゃった自分の気持ちにハッとしたんだ。七央が、結婚したって聞かされた時」
美鈴さんの言葉にずきっと胸が鈍い痛みに包まれる。
盗み見るようにして目にした美鈴さんは、視線を地面の先のほうに落としていた。
長く濃いまつ毛が伏せられている。
「心にぽっかり穴が空くとかよく言うじゃん? 本当にそんな感じになった。七央が、私の知らない人になっちゃったんだって思えて」
七央さんが結婚したと知った時、美鈴さんはどんな気持ちだったんだろう?
今少し前、そんなことを他人事のように考えていた。
そんなこと、私が想像することもおこがましい。
生ぬるい風が私たちの間に吹いていく。
食べかけのメロンパンを手にしたままじっとしていると、となりからは深く息をつくのが聞こえてきた。