契約結婚ですが、極上パイロットの溺愛が始まりました
俺の姿を見つけるとにこりと笑い、手を挙げ大きく振って合図する。そんな仕草は昔から変わらない。
「お疲れ様。ごめんね、乗務後に呼びつけて」
「ああ、別に構わない」
相席に腰を下ろすと、美鈴は珍しく神妙な面持ちで俺の顔をじっと見つめてくる。
「で、話って」
「ああ、うん」
こっちを見ていた視線が宙を泳ぎ、滑走路を離陸に向けて加速し始めたジェット機に落ち着く。
黙って続きを待っている俺に視線を戻した美鈴は、気持ちを落ち着けるように深く息を吐きだした。
「一回しか言わないからね……私、七央のことが好き」
はっきりとそう言った美鈴は、逸らさず真っすぐ俺の顔を見つめる。
これは、幼なじみや家族のような存在としてでの〝好き〟という告白ではないと、その場に漂う空気で感じ取る。
迷うことなく用意できた返事を口にしようとした時、それよりも先に美鈴が口を開いた。
「──だったよ。ずっと、いつからかわからないくらい昔から、つい最近まで」
聞こえてきたのは、さっきとは打って変わって晴れやかな声だった。
もうひとりで解決して納得したような、そんな心情が声に現れている。
「だから、久しぶりに帰ってきて七央が結婚したなんて聞いて、ショックだったんだからね。これでも一応」
ほとんど氷だけになったカップにささる黒いストローで中身をかき混ぜながら、美鈴は「でも」と柔らかい笑みを浮かべた。