契約結婚ですが、極上パイロットの溺愛が始まりました


 遅れると連絡もできないままこんなに時間を過ぎてしまって、もう呆れて帰ってしまっているに違いない。

 そう思っても、とにかくその場所に向かうこと以外は何も考えられなかった。

 焦燥感に駆り立てられ、約束の場所にただひたすら足を進める。

 恵比寿の複合施設内にある時計広場は、待ち合わせらしき人の影がぽつぽつとまばらに見えた。


 やっぱり、もういないよね……。


 もっと落ち着いて、病院で少しでもスマートフォンの充電をして連絡を入れてから行動すればよかった。

 慌てすぎて飛び出してきたはいいものの、結局無意味に動いてしまった結果がこれだ。

 一度帰って、謝罪の連絡を入れようと諦めながら踵を返す。

 医療従事者として、適切な対応をしたのだ。胸を張っていい。

 約束は破ってしまったけれど、正直に謝ればきっとわかってもらえる。

 肩を落として恵比寿駅に向かってとぼとぼと歩き始めた時──。


「あっ……!」


 突然、引き留められるように背後から腕を掴まれた。

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