契約結婚ですが、極上パイロットの溺愛が始まりました
「えー、じゃあ、例のその陣痛対応した飛行機の機長だったのが、桐生さんだったってことか」
「やだ、すごい偶然じゃん!」
ワインで乾杯をして会が始まると、話題はすぐに私と斜め前の彼が初対面ではなかったことに盛り上がる。
桐生七央さん──まさか、あの時ちらりと挨拶をした飛行機の機長に、こんなところで再会してしまうなんて誰も思うはずがない。
というか、今日のこの会の相手が航空会社の男性だなんてことも、少し前の自己紹介で知ったくらいだ。
佳純はなぎさから聞いていたみたいだけど、スイーツ目当てで来た私には伝えられていない情報だった。
私たち女性陣が看護師なのに対して、相手側の男性陣は機長がひとり、副操縦士がふたり、整備士がふたりという面子だ。
「社内でも話題になりましたよ、宇佐美さんのこと。『勇敢な助産師さんが』って、CAたちが」
桐生さんの向こうに掛ける副操縦士の森川さんがそんなことを口にする。
同意を求めるように「ですよね?」と桐生さんに声をかけると、桐生さんは「ああ」と私に目を向ける。
不意に視線が重なり合い、切れ長の涼し気な目にどきりとさせられた。
誤魔化すようにふわっと目線を泳がせる。
話題の中心にいるのが居心地悪く、「いえ、そんなことは」と笑みを見せつつ〝早くこの話終わって!〟と心の中で叫んだ。