契約結婚ですが、極上パイロットの溺愛が始まりました
会も終盤に入り始めた頃、バッグを手にひとりレストルームに立ち上がった。
私が〝酷い男に騙され、恋愛はお休み中のスイーツ好き〟だという話になってから、どうも居心地が悪くなってしまった。
つい口を滑らせかけて、付き合いで参加していると言いそうになった自分が全部悪いのだけど、やっぱりこういう席は向いてないなと改めて思っていた。
これからせっかくのスイーツが運ばれてくるのに、居づらくなったら今日無理して参加したのが台無しだと思い一旦席を外したのだ。
ひとりきりのレストルーム内で鏡を覗き込むと、どこかお疲れの顔。
仕事後というのもあるけれど、それだけではない。
艶出しのパウダーでくすんだ肌を誤魔化し、ナチュラルピンクのリップを塗り直す。
「……よし」
あとはお待ちかねのドルチェプレートの登場を待つのみだし、空気になって味わうことだけを考えよう。
レストルームを出て、客席に向かって雰囲気のある細い通路を戻っていく。
突き当たりに差し掛かる寸前でいきなり前方に人影が現れ、驚いて足を止めた。
「あっ、すみません」
謝りながら視線を上げて、そこに見た顔についまた「あっ」と声が漏れる。
ばったり鉢合わせたのは桐生さんで、思わず驚いたリアクションをもろに取ってしまった。