契約結婚ですが、極上パイロットの溺愛が始まりました
「待って、逃げないでほしい」
自分がまさか〝壁ドン〟というものを体験するなんて思いもせず、途端に身動きが取れなくなる。
依然として逸らされない視線に、鼓動の高鳴りは増すばかり。
「こ、困ります。こんな、誰か来たら……」
これは一体どういう状況なのかと思われてしまう。
桐生さんは壁から手を離し、「悪い」と言いつつも何事もなかったかのように私を見下ろした。
「できれば日を改めて、ふたりきりで会ってもらいたい」
「え……」
「折り入って、君に相談したいことがある」
相談したいこと……?
突然の申し出に言葉が見つからない。
そうこうしているうちに桐生さんは目の前でスマートフォンを取り出し、メッセージアプリの友達追加画面を見せる。
QRコード読み取り画面を出し、〝早く見せて〟と言わんばかりに私の目をじっと凝視した。
「あ……は、はい」
心の片隅では、なぜ?と思いつつ、言われるがままスマートフォンをバッグから取り出し、慌ててメッセージアプリを立ち上げる。
自分のQRコードを見せると、それを読み取った桐生さんが今度は自分のQRコードを出してみせた。
同じように読み取ると、桐生さんが新しい友達として登録される。
「改めて連絡する」
そう言うと、桐生さんはやっぱり何事もなかったように奥のレストルームへと去っていった。