契約結婚ですが、極上パイロットの溺愛が始まりました


 あの日の別れ際、桐生さんは「いい返事を期待しています」と言って立ち去った。

 それ以降は特に返事を催促されることもなく、連絡は入ってきていない。

〝契約結婚〟なんてフレーズを出された時、驚きすぎて頭が真っ白になった。

 なんの冗談が始まったのか、と。

 だけど、桐生さんに冗談を言っているような様子は全くなく、それどころか大真面目に交渉を始めた。

 身を固めないといけない状況と、自分の気持ちがついていかない苦痛。

 彼にとって、そのどちらをも解決できる方法が契約結婚だという結論にたどり着いたのだろう。

 そこでどうしてその相手に指名されたのかはわからないけれど、彼の挙げた条件によると、職を持っていて、自分と同じように結婚に興味のない女性を探していたというところに、たまたまタイミングよく私が現れたというだけのようだ。

 どうしてあの時、その場ではっきり断ることをしなかったのか。彼と別れてからその後悔に襲われた。

 決して脅されたり、断れない雰囲気を作られたわけでもない。

 桐生さんが真面目で真剣に相談してきたから、簡単に即答することができなかった。

 だけど、ひとりになって落ち着いて考えてみても、やっぱり物凄い話を持ち掛けられたと思う。

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