きみは幽し【完】





途方もない寂しさが溢れて、辺りを満たしていた。


あのとき残酷だったのは、私ではなく瀬戸周のほうだっただろう。


あれっきり、周と言葉を交わすことはなかった。私から電話をかけることはしない。馬鹿らしいルールを私を自分に課していた。それが、周を大切に思うことの必要条件のように私はとらえていた。



恋なんて本当に陳腐だ。
だけど、私はやっぱり瀬戸周が一番大切だった。

私の秘密を知っているのは、瀬戸周だけだったから。あの海の1頁があれば、「ふたり」という特別な単位は壊れることなどないと思っていた。




専門学校を卒業して私は地元に戻って就職した。周が上京したまま、そこで働き始めたことを、私は周からではなく風の噂で聞いた。

連絡がない。

それでも、私たちはいつかまたこの海で肩を並べて、海猫の話をする。
その未来を信じて疑わなかったのは、私たち、ではなく、私。


根拠のないものを信じたたがるのは、そのほうが痛くないからだ。
宇宙に陶酔する気持ちと似ているだろう。

掴み損ねていたことを知ったのは、今年の春のことだっだ。
ポストに、丁寧に糊付けがされた長方形の封筒がはいっていた。二つの名前が並んでいるのを見て、私は、その時、ようやく自分の傲慢さを知ったのだ。






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