きみは幽し【完】
瀬戸周が、結婚する。
封筒の中身が、結婚式の招待状だと気づくのに時間はいらなかった。
瀬戸周の恋心や愛が、私ではない違う誰かに向いていることを悟った。甘く煮詰めた砂糖菓子が、粉々になって消えていく瞬間をうまく避けられなかった。
変わらないものなどない。
「ふたり」とは、周が私に恋をしていて、私が周を一番大切だと思っている、その条件のもとで成り立っていた単位だった。
すべて、変わっていく。
不滅のものなんて、ほとんどない。
私は取り乱しはしなかった。
簡単に受け入れたふりができる程には、大人になっていた。
招待状の内容に一通り目を通して、いったん封筒にしまい直そうとする。
その時に、封筒の中にもう一枚便箋がはいっていることに気がついた。
恐る恐る取り出して、折りたたまれていたものをゆっくりと開く。
“花ちゃんへ”
ーーーそれは、瀬戸周からの手紙だった。