きみは幽し【完】
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かちかち、と無我夢中でネジを回していた。
限界までまわしきったところで、指を離す。
遠くの方で、船がうなる低音が聞こえた。
光に愛されたヴェールを愛おしそうにめくる周の横顔を私は知らなかった。清らかな口づけを私は知らなかった。幸福の鐘の音も、祝福の手拍子も、愛を包むなにもかもがある空間で、私は知らないことを知らないままに、受け止めていた。
恋とは、何。愛とは、何。
ブーケトスで、花々が自分のもとに振ってきたとき、
私は、罪滅ぼしのために周の結婚式に来たのだとようやく自覚した。
青春のすべてをとらえてしまったのなら、せめて他の誰かとつくりあげる「ふたり」というものを見つめるべきであると思った。
瀬戸周、幸せになってほしい。
同じ形ではわかり合えなかったけれど、その気持ちだけはたぶん同じだ。彼はやっぱりずっと逃げたかったのだ。
周は変わらないものを拒んだ。私は変わっていくものを拒んだ。
丁寧に、私たちは、見つめ合い、拒み合っていた。