きみは幽し【完】





か細い音楽が空に昇って、雨のように水面に振ってゆく。


幸せになってほしい。本当だ。本当にそう思っている。

でも、きみ、私はどうすればいいのだろう。


あのときの感覚が蘇る。どこからか放たれた透明の矢が涙腺の端に命中した。それでも、今は泣きたくなかった。泣いて、慰めてほしいと思うことの寂しさに耐えられる自信がない。


渚のアデリーヌに意識を集中させたかった。
どうして、周にもらったとき、私はこれを優しいと思ったのだろう。


変わることを拒んでいるくせに、私だって変わってしまっている。



「……あまね、」



思い出の輪郭がぼやけていく。ふたりで海へ行った最後の日。あれは「ふたり」の命日だったのかもしれない。

眠らせることと手放すことは、ほとんど同じだ。


だけど、私は取り残されている。

恋をし合えたら、よかったのだろう。


それでも、それがかなわなかったから、
私と瀬戸周は、あの頃、ふたり、でいた。






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