やっぱり彼女は溺愛されていることを知らない
 この人がうちの女子社員に人気なのは見た目のせい。みんなイケメンが好きだからルックスに騙されて彼の本性に気づかないのだ。

 実際はゴキブリ……いやミジンコ以下のクズ上司なのに。

「わかりました、お供します」

 油断したら言葉ではなく胃の中身を吐きそうだったがぎりぎりで踏み留まる。胸の中で「ここはブラック企業、これは仕事」と呪文のように繰り返した。

 いっそ三浦部長に呪いでもかかればとも思うのだが残念なことに私にはそんな力はない。

 私はただのOL。

 けど、今だけは魔女か呪術師になりたい。

「よし、とりあえず食事に誘えたぞ」

 密かにガッツポーズをとる三浦部長の声は私には届かなかった。
 
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