やっぱり彼女は溺愛されていることを知らない
 *

 二日後。

 私と三浦部長は会社の最寄り駅から二つ先の位置にあるホテルのレストランに来ていた。

 最上階にあるレストランは豪奢な内装で、普段の夕食がコンビニ弁当な私には不似合いこの上ない。しかも会社から直で向かったから着替える暇もなかった。

 安物のくたびれたビジネススーツ姿ではとても失礼な感じがして私は恐縮してしまう。

 緊張していたせいか、三浦部長と店員のやりとりは私の耳をスルーする。東ヨーロッパを連想させるクラシックの音楽だけが妙にはっきりと聞こえていた。

 お店の人に案内されて窓際のテーブルに着く。

 向かい合って座ると三浦部長が口をへの字にしてこちらを見つめてきた。その目が「どうして君はそんな格好なんだ」と責めているようで私はちょっと辛くなる。
 
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