やっぱり彼女は溺愛されていることを知らない
 だってこんなに豪華なところに連れて行かれるとは思わなかったんだもん。

 前もって教えてくれない部長が悪い。

「……!」

 私ははっとした。

 もしかして私に恥をかかせるためにここを選んだの?

 いつもコンビニ弁当だから?

 どうせテーブルマナーも知らない山猿だとでも思ってるんでしょ?

 次々とマイナスな考えが浮かんでは消える。

 私は三浦部長から窓へと視線を移し、思考を切り替えようと試みた。

 夜空に浮かぶ月が静かにその存在を主張している。

 月明かりと町明かりで星はあまり見えない。ダークブルーの空が高層ビルの上に広がっていた。ビルの谷間から僅かに覗けるネオンは隣の繁華街だろうか。

 自分の行ったことのある店はどのあたりかなと目を凝らしていると三浦部長の声がコツンと意識を叩いた。
 
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