やっぱり彼女は溺愛されていることを知らない
「大野はずっとこっちにいるのか?」

 私は彼に向き直る。

 イケメンだからという訳ではないが三浦部長はこのレストランにとても良く馴染んでいた。まるで名のある画家の描いた絵画のようだ。

 私が答えずにいると彼は質問を変えた。

「郷里に戻って暮らそうとか思わないのか?」
「……」

 えーと。

 これ、田舎に帰れって意味かな。

 私は膝の上に置いた手をぎゅっと握った。

 あーはいはい、どうせ使えない部下ですよ。

 でも、そんな嫌味ったらしく言わなくたっていいじゃない。

 ムカついてきた私に「東京から離れてまゆかの故郷で生活するのもアリだな」とつぶやく三浦部長の声は届かなかった。
 
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