やっぱり彼女は溺愛されていることを知らない
 ルックスは良いのでもう少しにこやかにしてくれれば印象も違っているのだがこの数分間にこりともしていない。むしろその表情の険しさは増していた。

 あーあ、どっかに行ってくれないかなぁ。

 彼、三浦拓也(みうら・たくや)第二事業部部長と同じ空間にいるというだけで何だか気が滅入ってくる。

 私はため息をついて彼から目の前のノートPCへと視線を戻した。画面には今日中に仕上げなくてはならない企画書が書きかけのママになっている。

 左右に頭を振って鬱屈を追い払うと私はカチャカチャとキーを叩き始めた。

 三ページ目を入力し終えて次の文章を考える。中空に視線を走らせながらああでもないこうでもないと頭を巡らせていると聞きたくない声が意識を小突いた。
 
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