やっぱり彼女は溺愛されていることを知らない
 必死に記憶を辿りつつ、それでいて焦りを面に出さぬよう私は努める。企画書が遅れたくらいでここまで怒るとは思えなかった。

 というかそんな些細なことで怒られたくない。

 中学生が課題を忘れたんじゃあるまいし。

 私、二十八歳の大人なんですけど。

「実は新しく接待に使おうと思っている場所があってね」
「はぁ」

 いきなり予想外の話をされ私は戸惑う。お小言マシンガンは火を吹かないんですか?

 もちろん声にはしない。

 そんなヘマをするほど私は愚かではない。
 
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