破滅エンドまっしぐらの悪役令嬢に転生したので、おいしいご飯を作って暮らします ②【11/25コミカライズ完結記念番外編追加】
 宿の扉を開け、部屋に入る前にシーゾーを迎えに行こうと受付に寄ろうとした時、 ザックが足を止め、受付で宿屋の主人と話す背の高い男を見据える。

「あれは……」

「どうしましたアイザック様?」

 エヴァンが呼んだ名に反応し、男がゆっくりと振り返る。

「これは、アイザック殿下」

 男はモノクルの奥のつり目を細め、ザックに恭しく頭を下げた。

「久しいな、クリンガー卿」

 ザックが口にした名前にアーシェリアスは驚く。

(ファーレンの宰相⁉)

 言われて見れば、確かに灰鷹の頭領が話していた特徴と一致する。

 ツリ目と、癖の強い巻き髪。

 年の頃は四十代くらいで、モノクルをかけている。

(どうして宰相がここに⁉)

 エヴァンが騎士らしく宰相に一礼するのを横目で見ながら、アーシェリアスはふたりのやり取りを見守る。

「いつお戻りに?」

「今日。まだ旅の途中だ」

「そうですか」

 うっすらと笑みを浮かべたまま受け答えする宰相。

 何を考えているのかいまいちわかりにくい表情に、ノアがぼそっと「薄気味悪い」と毒を吐く。

 アーシェリアスの肝が一瞬冷えるが、幸い、宰相には聞こえていないようだった。
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