破滅エンドまっしぐらの悪役令嬢に転生したので、おいしいご飯を作って暮らします ②【11/25コミカライズ完結記念番外編追加】
「じゃあ、俺たちも行くか」

「ええ、行きましょう。えっと、ゲレータ地区はどのあたりかしら」

 ポシェットの中に入れておいたエスディオの観光案内図を広げると、ザックが覗き込んだ。

 自然とふたりの距離が近くなり、アーシェリアスの心臓が跳ねる。

「ゲレータは……ここか。そんなに広くはなさそうだが、道が入り組んでいるから迷わないようにしないとな」

 馬車で隣に座る時より、声も少しだけ近い。

 以前ならきっと気に留めなかったのに。

 恋をするとこうも戸惑うものなのか。

 アーシェリアスは高鳴る鼓動を感じつつも、ザックを見ないようにしながら頷いた。

「そ、そうね。気を付けましょう」

 そのぎこちなさにザックが首を傾げる。

「どうした? 腹でも下してるのか」

 相変わらずデリカシーが不在気味のザックに、アーシェリアスは青筋を浮かべながら微笑む。

「違うわ。体調は万全よ」

「そうか。じゃあ行くぞ」

 ザックはそう言って、アーシェリアスに手を差し出した。

「なに?」

「念のため……はぐれて迷わないように」

 ほんのりと顔を赤らめるザックの様子に、アーシェリアスも頬を染める。

「迷ったりしないわ。子供じゃないもの」

 と言いつつも、遠慮がちにザックの手を取った。

(本当はまた、こうしたかった)

 カリドでただ一度、ほんの数分しか繋げなかった手。

 好きな相手に触れたいと思うのは自然だが、どうしていいのかわからなかったアーシェリアスにとって、ザックから行動してくれるのは嬉しかった。

 行動が、想いを語っていてくれているようで。

 指と指を絡め合い、鼓動を弾ませながらゲレータ地区を目指す。

 そんなふたりを、シーゾーはにこにこしながら小さな翼を羽ばたかせ見守っていた。


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