破滅エンドまっしぐらの悪役令嬢に転生したので、おいしいご飯を作って暮らします ②【11/25コミカライズ完結記念番外編追加】
「氷室のことか?」

「それがもっとコンパクトになって、電気……電鉱石のような力を延々と流し続けることで冷やしてくれるの」

 他にも、車や飛行機の話を聞き、最初は驚愕していたザックだったが、次第にその表情が曇っていく。

 変化に気付いたアーシェリアスが「ザック?」と、長い睫毛に縁どられた双眸を瞬かせた。

 アーシェリアスを見つめるエメラルドグリーンの瞳が不安げに揺らぐ。

「……何だか、今も別の世界に生きているみたいだ」

「私のこと?」

「ああ」

 頷いたザックは、存在を確かめるようにそっとアーシェリアスの頬に触れた。

 トクン、トクン。

 鼓動が跳ねるのを感じながら、アーシェリアスは唇を動かす。

「ここにいるわ。今の私が生きる世界はここよ」

 安心してと伝えるようにザックを見つめ返すと、一気に甘い雰囲気が二人を包んだ。

「……確かめても、いいか」

 どうやって?という疑問が湧くのと、ザックの顔がゆっくりと近づいてくるのは同時だった。

 彼が何を求めているのか察したアーシェリアスは、緊張しながら瞼を閉じる。

 壊れそうなほどに心臓が跳ねる中……。

「アーシェ……」

 甘く囁くような声で名を呼ばれて。

 一瞬、吐息が触れ、柔らかな唇が重なる。

 壊れ物を扱うような優しさで、そっと。

(ああ……キスって、こんな幸せで胸が切なくなるものだったかな……)

 頬は熱く、胸の奥で鼓動が早鐘を打っている。

(ザックだから、かも)

 啄んで離れ、足りないと言わんばかりにもう一度重なろうとした瞬間──。


 コンコンコン。


「アーシェ寝てるー?」

 ノアが扉をノックした。
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