破滅エンドまっしぐらの悪役令嬢に転生したので、おいしいご飯を作って暮らします ②【11/25コミカライズ完結記念番外編追加】
(みんな同じ食事に飽きていたから、こんなにトマトスープに喜んでいるのね)

 他のテーブルで笑顔を見せながらスープを口に運ぶ灰鷹の者たちの姿に、アーシェリアスは口元を綻ばせる。

(相手が盗賊でも、自分の作った料理で笑顔になってくれるのは嬉しいかも)

 料理は人を笑顔にしてくれる。

 やはりいいものだと改めて思っていると、ティコが「あ、そうだ」と声にした。

「お頭、うちの戦利品に料理の本なんてないっスかね」

 先ほどの約束通り、ティコが頭領に話を持ち掛ける。

(ティコ! さっそく聞いてくれるなんて、なんていい人なの)

 この人柄で灰鷹にいるのはもったいない。

 仕事が欲しいのなら、いっそ父のところで雇ってもらえないだろうか。

 しかし、今はそれどころではないので、頭領の返事に期待する。

「料理~? なんでまたそんなもん。お前、このお嬢ちゃんに感化されて料理に目覚めたのか?」

「違うっスよ。あれば、料理好きなアーシェにお礼としてどうかなって思ったんス」

 ダメっスか?と首を傾げるティコに、頭領はため息を吐いた。

「ティコ……お前、惚れたな?」

「ち、ちちちち違うっス!」

「ったく、ここは女っ気がないし、まあこの嬢ちゃんは別嬪さんだからしょうがねぇがな。こいつは売りものだ」

 惚れても先はないから諦めろと言うような憐れんだ目で見られ、ティコは顔を真っ赤にする。

「だからそんなんじゃないっス! つか、売られちまうからこそ持たせてやってもいいんじゃないっスかね?」

「はぁ……わかったわかった。だが、料理関連の本はなかったはずだぜ」

「でも、戦利品リストには本が何冊かあったはずっスよ」

 記憶を辿っているのか、何もない空を見ながら話すティコ。
< 94 / 232 >

この作品をシェア

pagetop