その瞳に黙らされる。
実は私と彼は面識がある。
私の家は高校からは遠くて、2回乗り換えが必要。私の家の最寄り駅を通る路線に乗る人はほとんどいなくて、それこそ私と彼だけだ。
初めて彼を見たのも入学式の日の電車の中でだ。
初めて彼と話したのも電車の中で。
私が彼の定期券を拾ったのがはじまり。
それ以来、行き帰りが被ると喋ることがある。
彼の愚痴を聞いたり、先生が言ってたつまらないギャグの話をしたり。試験前には一緒に勉強をしたこともある。
彼の透けてしまいそうな美しさはもちろんだが、人柄にも惹かれてしまうんだ。
「やっほ、美優。」
声をかけられて顔を上げると頬に赤い擦り傷のある彼の顔をとらえた。
「その傷どうしたの?」
「多分部活でこけた時に擦ったんだと思う。」
私がポーチから絆創膏を取り出して彼に持たせると、彼は息を吐くようにして笑う。