転生悪役令嬢のお目付役
最後はスチュアートとふたりになり、「それでは、明日また伺います」と出ていこうとする彼がぼそりと呟く。
「記憶を無くされても、ジュリアン嬢への恋心は忘れてくださらないのですね」
息を飲み、スチュアートに視線を投げると、彼は眉尻を下げている。初めて見せる人間らしい表情に驚き、目を丸くする。
「ご自身のお気持ちを大切にされたいのは、私にもわかります。しかし、あなたさまは王位第一継承者だ。国を背負うものとして、思慮深い判断をお願いします。と、言ったところで、今は無駄というものですね」
嘲笑するスチュアートは肩を竦め、今にも出ていこうとしている。
経緯もなにも知らず、下手な発言はできない。それでも、俺は今できる最大限の思いを吐露する。
「なにも覚えておらず、すまないと思っている。しかし、俺に仕えている者たちに、顔向けできない行いをするつもりはない」
記憶を失った王子に懸命に話しかける人たちは、どの人も愛に溢れていた。記憶を失ったのだから、陥れてやろうと目論む心を持ったとしても不思議ではない。
しかし誰からもそのような陰謀のかけらも感じられなかった。
「やはりあなたさまは記憶を失ってもなお、フィリップ王子だ」
朗らかにそれだけ言うと、スッと表情を消し、「では、よくお休みになられて、全て思い出されてください」と言い残し、扉は閉められた。