転生悪役令嬢のお目付役
気持ちを新たに
屋敷に戻ると、夢見心地な私にグラフィス卿が心配そうな顔を向ける。
「ジュリー。やはりまだ体調が芳しくなかったのではないか? 例え王子からの呼び出しであろうと、無理に出向かなくとも良かったのだ」
言葉尻を強めるグラフィス卿に、慌てて訂正する。
母を早くに亡くし、父であるグラフィス卿は盲目的な愛情を娘に注いでいる。それが行き過ぎては、破綻への道があまりにも早い段階で進んでしまう。
「そうではありません。フィリップ王子が麗しくあらせられて……」
しまったと口を噤んでも、グラフィス卿は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。
「ジュリーも王子に恋心を抱いていたとは。それならば話は早い。この婚約、早急に進めよう」
ほくほく顔のグラフィス卿に暗い気持ちになる。
そもそもジュリアンは自分の恋心を父に悟られるようなタイプではない。
ここでのジュリアンらしい台詞は『本当に疲れてしまいましたわ。フィリップ王子ったら、わたくしのご機嫌取りもなさらないで』と悪態をつくところだろう。
それでも、婚約者候補のひとりとして、丁重に扱われていたし、父グラフィス卿としても、自分の美しい娘こそが次期国王の妃にふさわしいと考え、強引に成婚を進めようとするのだ。