転生悪役令嬢のお目付役
大した収穫は得られないまま、ゲームがこちらの世界の人の目に触れたら大事件だと引き出しを開ける。
引き出しには入れたままのノートがあり、ゲーム機の代わりに手に取ると、ページをめくる。
内容に目を通し、肩を落とす。
《神様。願いを叶えていただき、ありがとうございます。立派な悪役令嬢を務めてみせます!》
清々しいほどの潔い宣言。
「それはそうか。喜んで来ているんだもんな。彼女は」
ノートには、綺麗な文字が並んでいる。
俺が現実世界で篠崎さんが気になるようになったのは、この綺麗な字を見たときからだ。
地味で目立たない彼女の、丁寧な字。
ただの伝言を書き記したものだったが、篠崎さんの人となりが映し出されている気がして興味を持った。
それからは、気づけば目で追っていて、人知れず清い行いをする篠崎さんに落ちるのは、必然で。
俺は自分のでき得る限り最大限にきれいな文字で、ノートに返事を書いた。
《どうして『悪役令嬢』になりたかったのですか?》
書いてみて返事でもなんでもなく、自分の疑問をぶつけただけだったなと頭をかく。それでも、聞きたかった。
フィリップ王子としては聞けないし、まして「俺、柏木だから」と言うわけにもいかない。