転生悪役令嬢のお目付役
スチュアートが入室してくると、どこか浮かない顔をしている。
「フィリップ王子。お加減はいかがですか」
「俺はいい。なにかあったのか」
わずかに目を見張ったスチュアートに「もしや、ご記憶が戻られて……」と、願望も込められた発言をされ、心苦しくなる。
「いや、思い出せるといいのだが」
ゲーム上、フィリップ王子は誰に対しても尊大な態度だ。もちろんそれが許される立場であり、そうするべきだと心得えたため、昨日頭に叩き込んだフィリップ王子らしい口調にした。
記憶が戻ったと思えるほど、自然だとしたら喜ばしいはずなのに、やはり騙しているようで良心は痛む。
「そうですか。身に染みついている所作なのでしょうね。昨日よりも殿下らしい」
「やめろ。お前にそう呼ばれると、むず痒い。今まで呼んでいたように呼んでくれ」
あからさまには表情を変えない性格なのだろうけれど、少しだけ頬を緩ませたのがわかる。
「では、フィル。グラフィス卿から茶会の招待があった」
「茶会?」
「ああ。養生も兼ねて、娘と茶でもどうかというのは建前だろうな。記憶を失っていると知れては、弱みを握られる」
スチュアートとは王子と側近。信頼し合っている関係。それはゲームをプレイしていて、カトリーナ越しに見ていた画面からも伝わっていた。
だからこそ、スチュアートには全幅の信頼を置くと決めた。