転生悪役令嬢のお目付役
スチュアートの報告を聞き、しばらく思案してから最良と思える意見を告げる。
「ジュリアン嬢だけなら、問題ないだろう。なにか不備があれば、雷に当たったせいだと誤魔化しておく」
こちらの世界の者ではない篠崎さんとの方が、バレにくいと踏んだ。それに篠崎さんと直接話し、今後のプランを考えたい。
「ジュリアン嬢とだけですか? それではますます、グラフィス卿をつけ上がらせるのでは」
王位第一継承者フィリップ王子、妃の座。
どんな令嬢も喉から手が出るほど、ほしい地位だろう。
そのせいで起こる目を覆いたくなる醜い女の争いを、ゲーム上で何度も目撃した。その主犯のほとんどが、ジュリアン嬢だった。
「つけ上がりたければ、つけ上がらせておけばいい」
自信に溢れた含みのある言い方に、スチュアートは悪い笑みを浮かべる。
「記憶を失われているのを、疑いたくなる。安心いたしました。全ては殿下の仰せのままに」
「だから、やめろと言ったであろう?」
腰まで折り、わざとらしく『殿下』と呼ぶスチュアートに冷えた眼差しを送る。
記憶はないはずなのに、気安い関係が肌にしっくりと馴染む。
悪くないな。将来、全権力を握る全能な王子になるのも。