転生悪役令嬢のお目付役
王子の異変
仕事の早いグラフィス卿のお膳立てで、すぐさまフィリップ王子と会う手筈となった。
麗しい王子が自分の目の前に座り、こちらを見つめているのが夢のようだ。
「ジュリアン嬢の心には、どなたがいるのですか」
「え?」
フィリップ王子の声は想像していたよりも、ずっと深くて体の奥に響く。どうにか卒倒は免れたけれど、いつまでも緊張をしてしまい緩めるのが難しい。
王子のイメージよりも丁寧な言葉運びは、ジュリアン嬢との距離を感じる。それなのに、質問された声色は甘い。
清らかな双眼は細められ、弧を描く。
答えに手間取っていると、フィリップ王子は重ねて言う。
「私といても、どこか虚ろげだ」
胸がキューッと掴まれたように痛くなり、目眩すらする。
フィリップ王子は公には『私』、心を許した者の前では『俺』と使い分けていた。見目麗しい姿で『私』と言われると、高尚さが際立って神々しい。