転生悪役令嬢のお目付役
「どなたが……と言われましても」
あなたさまです。そう心のままには、とても口にできない。
フィリップ王子の美しさを前に、考えがまとまらない。
ジュリアン嬢ならば……そもそも、王子にこんな発言をさせる隙さえも与えないだろう。
不意に手が伸びてきて、私の頬に触れる。大きな手は、優しく壊れものを扱うように添えられる。そして、戒めるような咎めるような声色で注意される。
「私といるときは、私のことだけを瞳に映して」
息を飲み、鼓動はありえないほどに早鐘を打つ。真っ直ぐに向けられる瞳に吸い込まれ、視線は逸らせない。
「それは、カトリーナ嬢に言われるはずでは……」
「カトリーナ嬢?」
怪訝な声を聞き、ハッと我に返る。いけない。心の声が漏れてしまった。
ゲームの、しかも中盤辺り。
フィリップ王子とカトリーナ嬢がいい雰囲気になったところで、王子がカトリーナ嬢に思わず言ってしまうひとことだ。
悪役令嬢のジュリアン嬢に言う台詞ではない。
「気に入らないな。別の人物を思い浮かべるくらい、私といても退屈だと?」
未だ頬に添えられている手の親指がそっと、私の唇をなぞる。
顔が熱くて堪らない。